ネコによる福音書

~愛と癒しのメッセージ~

ネコによる福音書
ネコによる福音書

101匹ねこちゃん~ネコになった男の子~

ねこ

  

はなをこえて
しろいくもが
くもをこえて
ふかいそらが

はなをこえ
くもをこえ
そらをこえ
わたしはいつまでものぼってゆける

はるのひととき
わたしはかみさまと
しずかなはなしをした

【谷川俊太郎『はる』】

  

あるところに、101匹のネコたちがいました。

 

ネコたちはみんなで集まって、わいわいがやがや、楽しくおしゃべりをしていました。

 

あるネコがいいました。

 

「この中で一番やさしいのは誰だろう?」

 

すると、別のネコが答えました。

 

「そんなのおいらに決まっているよ。

 

だって、おいらはネコなのにお肉を食べないんだ。

 

動物を食べないから、おいらが一番やさしいんだぜ!」

 

それを聞いて、また別のネコが言いました。

 

「私だってやさしいよ。

 

だって、私は生まれてから一度も怒ったことがないもの。

 

誰に何をされたって怒らない私が一番やさしいと思うの。」

 

また、他のネコが言いました。

 

「俺なんかいつも神さまと話をしているんだぜ。

 

神さまからのメッセージを毎日みんなに伝えているんだ。

 

そんな心のきれいな俺が一番やさしいに決まっているだろ?」

 

またまた、違うネコはいいました。

 

「僕は悟りを開きました。

 

すべてのことを知っています。

 

その知識によって、たくさんのネコたちの悩み相談に乗っている僕が一番やさしいのです。」

 

それから続々と、

 

「自分が一番」

 

「あたしが一番」

 

「せっしゃが一番」

 

「おいどんが一番」

 

などなど、次から次に、100匹のネコたちがそれぞれ、自分たちがいかにやさしいのかを主張し始めました。

 

そんなこんなを続けていると、1匹の小さな子ネコが泣き出してしまいました。

 

すると、100匹のネコたちは、自分たちのやさしさを見せ付けるために、一斉にこのネコにアドバイスを始めました。

 

「どうしたんだい?子ネコちゃん、悩みがあったら聞くよ、だっておいらはやさしいベジタリアンだからね、とりあえず、体に悪いものを食べるのはやめようぜ、それから体を鍛えようか!」

 

「子ネコちゃん、なんで泣いているの?泣く必要なんてないんだよ?泣いても問題は解決しないよ、冷静になってごらんよ、泣くのは弱さの証だよ、絶対に怒らないし、感情的にならない私に何でも相談しなよ、強い心を持ちなさい」

 

「神さまは子ネコちゃんのこと愛しているんだよ、だから泣くのはやめなさい、元気を出すんだよ、神さまもそう言っているよ、ほら、神さまからのヒーリングエナジーを送ってあげるよ」

 

「悟りがすべてだよ、子ネコちゃん、悲しみは存在しないし、悲しんでいる君も存在しないのさ、これこそ完璧なアドバイスだよ、さぁ、考えることをやめ、「ネコ」でいることをやめてごらん?」

 

1匹の小さな子ネコは、みんなの様々なアドバイスに混乱し、頭を抱えながら言いました。

 

「わたしは全然やさしくないから、みんなのようにはなれないから、とても辛くて苦しいの、毎日一生懸命生きてるけど、何にもうまくいかないし、それでもやさしくなれないし、どうしたらいいのかわからないの、何のために生きているのかもわからないし、これ以上、もう何かをがんばることにも疲れたの、みんながうらやましいの、みんなのようになりたかったの、でも、それは無理なの、どうしてもできないの、だから泣いているの、もうどうでもいいの、生きていたくないの。」

 

そう言いながら、この小さな子ネコは突然走り出し、川に飛び込んで溺れて死んでしまいました。

 

100匹のネコたちは、とても驚いて、死んでしまうほど悲しみました。

 

誰が一番やさしいのかについて比べ合うことが、いつの間にかこの小さな命を傷つけていたことに気がついたからです。

 

それ以来、100匹のネコたちはやさしさについても、他のどんなことについても、これ以上競い合うことをやめて、お互いの素晴らしさを認め合うようになりました。

 

1匹の子ネコのために、100匹のネコたちはみんなでお墓をつくりました。

 

そこには、「世界一やさしいネコ」と書かれていました。

 

これからつくるどんなお墓にも、「世界一やさしいネコ」と書くことをみんなで決めたからです。

 

それから、100匹のネコたちは毎日、それぞれのやり方で子ネコのへのやさしさを表現しました。

 

あるネコは歌を歌いました。

 

あるネコは毎日お花をたむけました。

 

あるネコは子ネコのために祈りました。

 

あるネコは詩を朗読しました。

 

みんながやさしいネコでした。

 

みんながやさしい命でした。

 

そんなみんなの姿を、子ネコの魂はどこかからすべて見ていました。

 

毎日みんなから送られてくる愛を感じながら、子ネコの魂はゆっくりと空高くのぼっていきました。

 

高い高い空の向こうに、美しい大きな光があって、子ネコは、その光の中に入っていきました。

 

子ネコの魂は、その美しい大きな光の中で、たくさんのやさしさに包まれながら、ついにはその光と一つになりました。

 

ある朝、男の子は涙を流しながら目を覚ましました。

 

男の子は、不思議な夢を見たような気がしましたが、それがどんな夢だったのか覚えていませんでした。

 

けれど、男の子の心の中には、「もっと自分のことを大切にしよう」、「もっと自分のことを心から愛してあげよう」という強い気持ちが生まれていました。

 

101匹のネコたちの物語は幻のように消え、この小さな男の子の心の中で、いつまでもいつまでも生き続けるのでした。

 

この物語はこれでおしまいです。

 

あなたの物語はこれからも続きます。

 

どうか、自分を大切にしてください。

 

愛と光を。